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東京地方裁判所 昭和63年(ヲ)2154号 決定

申立人

株式会社サンプラン

上記代表者代表取締役

本田貴士

相手方

横関英二

主文

申立人の本件引渡命令の申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

第一  申立人の趣旨及び理由

申立人は「相手方は申立人に対して、別紙物件目録(1)記載の建物(以下「本件建物」という)を引き渡せ。」との裁判を求め、その理由とするところは、「申立人は、当庁昭和六一年(ヌ)第五八〇号土地建物強制競売事件(以下「本件競売事件」という)において、別紙物件目録(2)記載の不動産(以下「本件不動産等」という)を買受け、昭和六三年九月一九日代金を納付した。相手方は、同事件の債務者兼所有者であり、本件不動産等のうち本件建物に居住しこれを占有している。よって、申立の趣旨記載の裁判を求める。」というのである。

第二  そこで、検討する。

1  本件一件記録によると、本件競売事件において、申立人は、本件不動産等の買受人となり昭和六三年九月一九日に売却代金を納付したこと。そこで、本件では本件建物の二階部分(以下「本件部屋」という)について、債務者兼所有者である相手方本人が居住しているとしてその引渡しを求めるものであること。ところで、本件不動産等の所有者である相手方は、母親である横関ノブ、横関英達ら共に本件不動産について所有権としてそれぞれ各三分の一共有持分を有していること、そして、現在本件部屋には相手方の妻と子供達が居住し、現に占有している(昭和六二年二月二七日現在における現況調査報告書によると一階部分は、相手方本人の母親であり、本件不動産等の共有持分権者である横関ノブが居住している)が、相手方本人は本件建物に居住せず他に別居している事実を認めることが出来る。

2  そうすると、本件においては、申立人の申立は、本件建物につき買い受けた共有持分による引渡命令の申立をなすものであり、それはこの場合、引渡命令の申立権の発生成立が問題となるということができる。ところで、共有持分は単独所有における所有権に比べて、共有者相互間の人的関係に基づく制約をうけると解することができる。そして、共有持分に基づく物権的な使用収益権能(民法二四九条)は、観念的なものであり、他の共有者との協議を経て初めて直接的に共有物を支配できるにすぎず、共有持分自体は対象不動産の引渡しの強制執行(民事執行法一六八条)により実現される権利ではない。また、共有持分の買主は、実体上当然には売主に対し目的物全体の売買契約に基づく引渡請求権を有しないから、共有持分の買受人は、債権的請求権としても引渡しの強制執行により実現される権利を取得することはできない。したがって、民事執行法における対象不動産の引渡命令は、共有持分自体の満足を図るための手段とはなりえず、共有持分の売却により、引渡命令申立権は発生しないとして、その買受人の引渡命令申立権は否定すべきものと解すべきである。そのことは、さらにいえば、引渡命令は、買受人に対し実体上の権利より大なる権利を付与するものではないというべきことである。

3  そうだとすると、申立人の本件申立は理由がないので却下することとし、申立費用について民事執行法二〇条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとうり決定する。

(裁判官小野寺規夫)

別紙物件目録 (1)

所在 東京都目黒区緑が丘二丁目二四二九番地

家屋番号 四四四番一〇

種類 居宅

構造 木造瓦葺平屋建

床面積 39.66m2

(現況)  木造瓦葺二階建

一階 51.00m2

二階 51.00m2

上記建物のうち別紙建物平面図の赤書部分二階51.00m2

別紙物件目録 (2)

1 所在 東京都目黒区緑が丘二丁目二四二九番一七

地目 宅地

地積 74.08m2

持分の三分の一

2 所在 東京都目黒区緑が丘二丁目二四二九番地

家屋番号 四四四番一〇

種類 居宅

構造 木造瓦葺平屋建

床面積 39.66m2

持分三分の一

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